何を隠そう(いや別に隠してないですが・・・)
私は以前、個人で欧州ブランドのバイヤーをしていました。
個人ですのでピッティ・ウォモ(イタリアのフィレンツェで年に2回行われる世界最大のプレタポルテ見本市)等や各メゾンの事務所に行って契約するのでは無く、あくまで洋服好きの個人がブランド直営店で「自分用」のふりをして買う(仕入れる)のです。
欧州でバイヤーの仕事を一度でもした方ならお判りでしょうが、ヨーロッパでは店頭にある商品でもお金を支払えばいくつでも買えるものではありません。
むしろショップ側は、こんな素晴らしい商品を「売ってあげてる」スタンスです。
こちらは「買わせて頂く」というスタンスで臨みます。
最初はそのスタンス自体に驚いたものです。
でも考えてみればそれもそのはず。
日本で売られている欧州ブランドの殆どは日本の商社や代理店が欧州価格の平均1.5倍、ブランドによれば2倍以上の値段で売るのですから。
例えば日本で10万円の商品がフランスやイタリアなら5~7万円程度で買えます。
6万円で仕入れて8万円で売れば1点売れるだけで2万円の利益が出るのです。
また買う側も日本で買うより2万円も安く買えるのです。
買う側にも喜ばれて利益も出る。
こんないい仕事は他に無いと思いました。
ただ、それをされると困るのが日本の商社や代理店です。
そういうことをされると日本の定価では売れなくなるからですね。
ですので、そういった商社や代理店、ラグジュアリーブランドでしたら、そのブランドの日本法人等がバイヤーには売らない様にと欧州本社に釘を刺しているのです。
そういう事情も有り私もあくまで「自分用」のふりをして買う(仕入れる)のです。
バッグやアクセサリーならいいのですが、お洋服はサイズがあります。
それでも人気商品は各サイズ揃えたいので自分以外のサイズやレディースの商品を買いたいときに苦労します。
そんな時は兄弟や親せきを増やすのです(笑)
これ、弟も欲しいといってたのでMとSをくださいとか、姪っ子の土産にしたいのでこのワンピースをくださいとか・・・
実際、その時代時代で人気の商品は大体決まっていました。
分かりやすいのが日本では早々と完売したものとか芸能人(当時ならキムタク)が着ていた物は確実に売れます。
フランスのパリで買って、イタリアに渡ってローマで買ってフィレンツェで買ってミラノで買って・・・
色々工夫して出来るだけ沢山買えるようにあれこれ作戦を練りました。
現地でイタリア人を雇って買ってきてもらったりもしました。
当時はメンズ、レディースに関わらずドルチェ&ガッバーナが大流行しており、一世を風靡したクラッシュデニム等は日本で買えば10万円以上、イタリアなら6万円くらい。
でも実売価格はプレミアがついて12~15万円くらいで売買されていました。
私は日本で大流行する前にドルチェ&ガッバーナに目を付けていたのでミラノ本店でさえVIP顧客として登録されていました。
日本で大流行してからは日本や韓国、中国からバイヤーが押し寄せて来てお店の中はバイヤーだらけでした。
みんな「自分用」のふりをしてますが私は見ればすぐにバイヤーだと分かりました。
その頃、私は店長とも仲良くしていたので私がバイヤーだと薄々知りながらもVIPルームで人気モデルを大量に仕入れる事が出来ました。
もちろん最初はドルガバ好きのお兄さんを装い全身ドルガバでした。
ハンチング、ニット、レザーブルゾン、クラッシュデニム、ベルト、ブーツ、アクセサリー・・・全身で100万円以上。
あくまで見せるためだけの衣装なので汚さない様に来てました(笑)
出典 ドルチェ&ガッバーナHP
当時の人気は洋服なら断然ドルガバでしたが、バッグや小物はやはりルイヴィトンやエルメス、シャネル等が人気でした。
いづれもフランスブランドで、買い付けの難しさは天下一品です。
イタリアブランドのグッチやプラダ、フェンディ等の方が買い付け易いイメージがありました。
ブランドの中でもエルメスは買い付けの難しさというより買えないブランドでした。
特にバーキンやケリーなどはフランス、イタリアに100回近く行ってますが、店頭で見掛けたのは5回ほどです。
店頭に並んでいても売っては貰えません。
バーキンを店頭で見かけたフランスのとあるエルメスでの会話。
私「バーキンありますか?」
店員さん「ありません」
私も負けずに飾ってあるバーキンを指さし・・・
私「あのバーキン見せて貰えますか?」
店員さん「あれはディスプレイ用で売り物ではありません」
そう言われれば諦めるしかありません。
が・・・
その10分後、フランス人のご婦人がそのバーキンを買っておられました。
そういう経験を積み、私はバーキン自体が嫌いになりました(笑)
バイヤーの仕事を辞める少し前にバーキンをフランスで購入できるテクニックを知りましたが、当時の私にはそれを実行する気力は既に無くなっていました。
今年2月に日本ではバーキンの定価が上がった様ですね。
まあ定価と言っても日本でもなかなかお目にかかれないですけど・・・
その代りルイヴィトンはそれなりに買い付け出来ました。
ルイヴィトンは誰でも何個でも買えるの?と聞かれそうですがとんでも有りません。
ルイヴィトンも買い付けの難しさではエルメスに次ぐものです。
全てパスポートで管理されていて例えばパリで購入して二日後にローマで買おうと思っても「あなた一昨日パリで買ってますよね!?」と怪訝な顔をされます。
「ヨーロッパのルイヴィトンで商品を買えるのは一年に一個まで」というのが一般的な様です。
ですのでルイヴィトンの商品を買い付けるのもバイヤーはとても苦労しています。
特に人気商品はバーキン同様、店頭に有っても売って貰えない事があります。
パリのシャンゼリゼにあるルイヴィトン本店前には沢山の中国人バイヤーが居て観光客に声を掛けています。
バッグの写真を見せて、この商品を買ってきて欲しいというのです。
実際に買ってきたら手数料を渡している様です。
私は欧州内のとあるルイヴィトンで仲良くなった店員さんがいるので、パスポートチェック自体がありません。
ですのでいくらでもとは言いませんが、人気商品でも普通に買える様になりましたし、ファッションショーにも招待されました。
あ、フランスやイタリアにもブランドのアウトレットはあります。
アウトレットは殆どの場合、購入規制はありません。
5個欲しいと言えば5個買えます。(一部買えないブランドもあります)
今年モデルはありませんが型落ち(昨年以前のモデル)なら安く買えます。
イタリアなら普通でも日本定価の50%~70%程度で買えるのでアウトレットでしたら日本定価の30%~50%程度で買えてしまうのです。
あまり苦労しなくて沢山、しかも安く買えるので初めてバイヤーのお仕事をするならアウトレットでの購入はお勧めです。
エルメスやルイヴィトン、シャネルはアウトレット自体がありませんが、グッチやプラダなどのラグジュアリーブランドのアウトレットもあります。
もう一つお勧めはストックハウスです。
つまり売れなかった商品→アウトレットという以外に売れ残った商品をまとめて全て買い取る業者があり、その業者の倉庫で買うのです。
アウトレットとは比べものにならない安価で買い付ける事が可能です。
例えばドルチェ&ガッバーナのデニムならこんな感じです。
日本の直営店 100,000円
イタリアの直営店 60,000円
イタリアのアウトレット 30,000円
イタリアのストックハウス 15,000円
今、日本でのドルチェ&ガッバーナの人気は当時ほどではありませんが、
定価100,000円のデニムが15,000円で仕入れる事が出来るなら今でも利益は出ると思います。
ストックハウスはドルチェ&ガッバーナ以外にも色々なブランドの取扱があります。
なかなかネットで調べても出てこない裏情報ですが、
これからバイヤーを目指している方が利益を出すならお勧めの方法です。
出典 ドルチェ&ガッバーナHP